私たちの腸内細菌のDNA解析が進みさまざまなことがわかってきました。ここでは新しい食育を、「腸」から考えてみたいと思います。

グラフをご覧ください。これは船橋市の人口構成を表したものです。点線の30〜50代の第二世代が、その上の第一世代を支えています。第二世代は人口が多いのでまだいいでしょう。
しかしやがてこの中年層はシルバー層となります。より人口の少ない第三世代の子どもたちの負担は大変なものとなるでしょう。
このコーナーは、人生100年時代を生きる子どもたちの健康を考えるためにまとめました。しかし私たち大人世代も同様です。なにより、子どもたちの負担になってはいけません。認知症や寝たきりになると社会保障費は高くつきます。健康ならば長く働け、かつ納税できます。そのためのカギが、実は「腸」にあるのです。
最新の遺伝子技術により、腸内細菌の働きが私たちの健康に深くかかわっていることがわかってきました。特に子ども。実は腸内環境は幼児期までに決まるといわれています。お菓子やジュースなど、砂糖だらけの食習慣は、生活習慣病だけでなく、子どもの情緒を不安定にし、集中力を奪います。学力にも響くのです。
子どもの心身の健康を「腸」から考えるとともに、私たち大人の健康問題も解決できたら…。それが私のねらいです。
いきなりクイズです。毛細血管を含めて、全身の血管を全部つなげるとどのくらいの長さになるでしょうか?

答えは③10万キロ。実に地球2周半に相当します。びっくりです!
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ではこの地球2周半を血液がひとめぐりする時間は?①1分②1時間③10時間のうちどれでしょうか? 正解は①です。地球2周半もの距離をたった1分で血液は流れるのです。血管には大変な圧力がかかっているのですね。
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私たちの体内の血液量は約4.5リットル。それに対してブドウ糖の量は約5gほどに保たれています。濃度的にはそれで十分なのです。しかしそこに、大量の糖分が流れ込むとどうなるでしょうか?

コーラ1本で角砂糖15個分。インスタントやきそばにいたっては、なんと24個分!そんなドロドロの血液が、地球2周半分の距離をたった1分間で走り回るようすを想像してみてください。その圧力に耐えている血管がなんだかかわいそうになります…
ここに最近話題になっている「血糖値スパイク」という問題が出てきます。正常な人はだいたい血糖値は140mgをこえない範囲で推移します。糖尿病患者は200mgをこえる高血糖状態です。
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血糖値スパイクを起こす人は、食事をすると血糖値がはね上がり140mgをこえます。すると血管に炎症がおこりやすくなります。これが、がん・心筋梗塞・認知症などの一因であるという報告があります。
それだけではありません。血糖値スパイクは精神面にも影響を及ぼします。甘い物を食べて血糖値スパイクがおきると、すい臓からインスリンが放出されて血糖値は急降下します。いわゆる「低血糖状態」です。

すると集中力が低下し、イライラします。勉強に身が入りません。そこで甘いものに手を出す。すると血糖値は上がり…このくり返しです。
夏見台幼稚園・保育園には調理場が3つありますが、そのどこにも白砂糖はありません。甘味はてんさい糖か高級本みりんを煮切って使っています。それはなぜか?

白砂糖の害として次の4つをあげました。まず❶の糖化です。血管はたんぱく質でできています。お菓子やジュースのとりすぎで血液中に糖があふれ、たんぱく質とくっつく。それが体温で熱せられると毒性を持つ糖ができます。これが糖化(こげる)です。すると活性酸素が発生し、酸化(さびる)が起こります。活性酸素は各種炎症物質を活性化します。その結果の炎症(燃える)です。炎症は万病のもとです。

次は❷ビタミン・ミネラルの喪失。食事とスイーツとの大きな違いは、「食事は栄養を摂るもの ⇔ スイーツは栄養を浪費するもの」ということです。糖類をエネルギーとして活用するときに、ビタミンやミネラルが消費されます。特にビタミンB1。これは「道徳ビタミン」といわれ、感情のコントロールに深くかかわります。またカルシウムも消費されます。カルシウムは鎮静作用があり、欠乏するとキレやすくなります。
❸については前項で触れました。最後に❹の腸内細菌の乱れ。ここが本題になります。砂糖は腸内の悪玉菌の大好物です。お菓子・ジュースのとりすぎは腸内環境を乱します。そしてここが重要なのですが、「腸内バランスは幼児期までに決まる」ということです。
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グラフは自然分娩・母乳育児で育った場合の、平均的な腸内細菌の分布の推移です。生後2,3時間でまず悪玉菌(大腸菌)が優位を占めます。3,4日くらいたつと善玉菌(ビフィズス菌)が入れ替わり優位になります。そして、幼児期までにだいたいその後の腸内細菌のベースができるというわけです。
小さな子どもは、最初は特に甘いお菓子やジュースなど欲していません。ただ、ひとたび与えて味を覚えてしまうと、「もっともっと!」と中毒になります。それくらい強烈なのです。
4月の入園式で、私は「せめて卒園まではお菓子・ジュースはお控えください」とお話ししています。幼児期の腸内環境の乱れは、その後の人生に大きく影響します。せめてこの時期だけでも食事に気をつければ、健康の土台を手にすることができるのです。上のグラフはその可能性を示唆してくれます。
私は夏見台幼稚園・保育園に勤める前、同じ学校法人三橋学園の運営するコンピュータの専門学校で働いていました。仕事は学生募集。千葉県の高校を訪問して、学校の宣伝や進路講話などをしていました。その延長で、キャリア教育の全国講演を始めました。
高校の先生とよく教育談義をするわけですが、最近は腸内細菌の話ばかりです。

そんな話を宮崎県の高校の先生としていました。するとその先生から興味深い話を聞きました。高校生の数が少ない地方の高校では、進学校といっても、学力の低い生徒も受け入れざるを得ないといいます。そこで成績別にクラス分けをします。その高校の先生は次のようなことをいうのです。

なるほどと思いました。家庭の教育力です。お金を渡して「好きなものを飲みなさい!」ではなく、ひと手間かけてお茶をわかして持たせる。ここには大きな差があるのです。
するとある日のこと。園では近所の高校からインターンを受け入れています。毎年数名の高校生を受け入れている船橋市内の進学校の先生が「今年もよろしく」とあいさつに来られました。新しく着任された先生でした。私はいつものように食育の話ばかりしていました。そして宮崎県の例の高校の話をしたのです。するとその先生の顔が「はっ」と変わりました。

こうなってくると確信に変わってきます。ペットボトルのジュースか?ご家庭から持参する水筒か?家から運ぶには重いし、親御さんも面倒だし、まあ、コンビニで好きなものでも買って!…しかしこんな小さなところに、大きな違いがあるのではないでしょうか。
お子さんが大きくなり、高校生から生活習慣を変えようとしてもなかなか難しいところです。しかし幼児期なら簡単です。腸から健康を考えるとは(大げさな表現を許していただければ)将来の学力問題につながるかもしれない、と私はいいたいのです。
日本の主要疾患別死亡率の推移をみると、1945年あたりでは結核・肺炎・脳卒中が主な死因となっています。それが2000年ではガン・心疾患・脳卒中と変化しています。
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その明らかなターニングポイントが点線の1945年あたりにあります。実はこの年、抗生物質(ペニシリン)が一般に解禁されています。それまでは軍隊での使用に限定されていました。第二次世界大戦のノルマンディー上陸作戦(1944)で、アメリカ軍はペニシリンを飲みまくって敵陣に突撃したといいます。
ペニシリンは医学の世界に革命を起こしました。それまではちょっとしたすり傷がもとで死ぬことがありました。つまり「急性炎症」の時代です。外敵はつねに外にありました。私たちの免疫細胞はつねに皮膚や口・鼻から侵入してくる病原菌に備えていました。
しかし抗生物質が病原菌を殺し始めると、今度は「敵を失った免疫細胞が私たち自身を攻撃し始めた」。そんな説が出てきました。これが「慢性炎症」の時代というわけです。
ガン、糖尿病、肥満、アレルギー、うつ病、認知症、自閉症、動脈硬化…こうした病気の共通点に、免疫細胞の暴走による慢性炎症があるというのです。
肥満は脂肪細胞が炎症を起こしています。太っている人の脂肪細胞をみると、免疫細胞のマクロファージが群がっていて、まるで燃えているようだ、という研究者の言葉があります。動脈硬化や心疾患は血管の炎症、うつ病・自閉症・認知症なども脳の炎症が疑われています。
そのひとつの原因として、抗生物質が、人体に必要な腸内細菌にまで過剰な攻撃をしてしまったことがあげられます。
母親の腸内細菌を引き継いだ赤ちゃんは、幼児期までに腸内環境の基礎固めを終えるとすでに書きました。その際、腸は体内の免疫細胞をトレーニングすることがわかってきました。敵(病原菌・ウイルス)と味方(必要な腸内細菌等)の違いを教え込むのです。
しかしこの大切な幼少期に、抗生物質を多用すると腸内が乱れます。必要な訓練を受けていない免疫が暴走し、アレルギーや自己免疫疾患、肥満などが増え…そんな研究が今行われています。

ですからその根っこを断つのです。腸内環境を整え、免疫の暴走を防ぎ、慢性炎症を抑える。そうして、アレルギーや肥満などの21世紀型の病気に対処する。食育とは予防医学なのです。自らの意志で、腸にやさしい食習慣を身につけることが大事です。
※安易な抗生物質の使用はいただけませんが、この薬はなくてはならないものです。お医者さんの指導のもと、必要な用法・用量にて服用してください。
下の写真は私の小学2年のものです。中央が私。肥満児でした。周りの子どもとの体格の差が明確です。ここで私自身の話をさせてください。

父は若いころ相撲部屋から誘いが来たくらい肥っていました。大食い・早食いでした。お調子者だった私は、たくさん食べるとほめられるとばかりに、子どものころから大食い・早食いでした。

インスタントラーメンを食べている小学校高学年頃の写真です。あの頃の主食でした。今の私と違ってとても肥えています。
しかしやせる努力は続けました。学校で「デブ!デブ!」と軽くいじめられたことがきっかけでした。晩ごはんはリンゴしか食べない。なわとびをとびまくる。でも食欲は落ちない。やせない。なぜだろう?私は苦しみ続けました。
特に大学時代は大変でした。アルコールが入り理性が飛ぶと大食いが始まります。翌朝深く後悔して断食する。過食と拒食のくり返し。ひどい便秘にも苦しみました。
私は食欲との戦いを人生における最大テーマの一つと位置づけ、なんとか、30代なかばに意志の力で食欲を屈服させました。
しかしそんな苦しまなくても、今はやせなかった原因がわかります。そう、腸内環境です。
実は私は、ごく小さな頃からよく風邪をひきました。幼稚園の出席カードはある時期から休みだらけ。高熱がひどく、扁桃腺とアデノイドの切除までしました。中耳炎もやっています。
つまり抗生物質をたくさん飲んでいました。腸内環境の土台作りという大切な時期に、抗生物質で腸内細菌を殺しまくっていたのです。だからアレルギー体質でした。アトピー性皮膚炎は20歳くらいまで続き、治ったと思ったら25歳から花粉症。これは現在まで続いています(2018年8月時点で私は52歳。もう25年以上です)。
こうなるとあとは喘息しかないわけです。アレルギー・マーチ。私はなんとしても体質を改善したいと、ずっと考え続けてきました。そんな時に、腸内細菌についての本に出会ったのです。
2003年にヒトDNAの解析が終わりました。その総数21000個。ミジンコの31000個にはるかに劣る数です。しかしながら、体内の腸内細菌のDNA総数は、なんと440万個もあることがわかりました。この腸内細菌が、私たちの健康管理を担っているのです。
あらかじめ結論からいうと、
①食物繊維(雑穀・海藻・キノコ・緑黄野菜・マメ)をたくさんとる②食物繊維は腸内細菌のエサとなる③その際、短鎖脂肪酸(たんさしぼうさん)という代謝物が出る④この短鎖脂肪酸が血液中をめぐり、私たちの健康に役立っているということになります。
座薬には即効性があります。直腸からすぐに血液中に吸収されるからです。だからこそ、腸にはバリア機能があって、体内に悪いものが入らないように守るのです。免疫細胞の約70%が腸に集中していることもうなずけます。

図は腸壁の断面図です。レンガのように並ぶ腸壁の細胞とその上を覆う粘液層が、血管内への細菌侵入を防いでいます。
ここには3つのバリア機能があります。①まず腸内にIgA抗体などの抗菌物質を出す②粘液層を厚くする③腸壁の細胞の結合を密にする。
以上の働きに腸内細菌が関与していることがわかりました。具体的には、腸内細菌が食物繊維を食べて出す代謝物の「短鎖脂肪酸」がヒトDNAに指令を出し、私たちの健康を守ってくれています。
短鎖脂肪酸には次のような働きがあります。

まず❶のエネルギー源といえばブトウ糖ですが、大腸の細胞は短鎖脂肪酸が100%エネルギー源となります。さらにあまったエネルギーは全身をめぐり活用されます。
❷はダイエットに大いに関係します。なんと、短鎖脂肪酸が脂質吸収の調整を行っているというのです。
肥満とは脂肪細胞の肥大です。血液中に流れている脂肪を脂肪細胞が取り込み続け肥大していきます。しかしその脂肪細胞に短鎖脂肪酸が働きかけると、脂肪の取り込みをブロックします。食物繊維をとるとやせるのは、なにも便秘解消ばかりではないのです。
❸の腸のバリア機能はすでに触れました。腸内の不純物が血管内に入ると「炎症」の原因となります。短鎖脂肪酸がヒトDNAに働きかけて、粘液を増やし厚くします、腸壁の細胞を締めます。
それだけではありません。短鎖脂肪酸は「アレルギーを治す夢の免疫細胞」といわれる❹「Tレグ細胞」の産生まで行います。
ちなみに、このTレグ細胞(制御性T細胞という免疫細胞)は、大阪大学の免疫学教授、坂口志文先生が発見しました。※坂口先生は2025年のノーベル医学・生理学賞を受賞しました!

人間の免疫機構はときに暴走します。花粉や食物、あるいは自分の体など、害のないものまで外敵とみなし攻撃します。これがアレルギーです。Tレグ細胞は、そんな免疫の暴走を抑える役割を果たしています。そして、このTレグ細胞を増やすのが、まさに短鎖脂肪酸であることが最近わかってきたのです。
以上のことは、私たちが意識して食卓に食物繊維を並べるだけで可能になります。しかし私たちは食物繊維をとらなくなりました。かつての日本人はたくさん食物繊維を食べていましたが…
東北大学名誉教授の近藤正二先生は、日本の長寿村・短命村の食事を研究しました。昭和10年から46年まで、北海道から沖縄の全国990町村を食べ歩きました。まだ交通が十分でなかった時代です。
当時の日本は脳卒中で亡くなる人が多く、その要因を調べることが目的でした。最初は「遺伝・気候・大酒・重労働」などが怪しい、と考えていました。しかし現地の人と膝を突き合わせ、生活習慣を知るにつれ「食生活」こそが大きな要因であることを確信します。

結論です。長寿村では雑穀・緑黄野菜・海藻・大豆などの「食物繊維」を豊富にとっていました。加えて「重労働」(自給自足の生活)。一方の短命村では精製された白米・魚の多食、野菜不足が共通点です。ここでいう「魚」とは「大型魚の切り身」のことで、長寿村では小魚を頭から丸ごと食べていました。
近藤先生は「米どころに長命なし」といって批判をあびます。野菜や大豆をとらずに「米と魚」ばかり大食する、この2つは日本人の長生きの妨げをしてきた「かたき」とまで書いています。40年近くにもわたり、自分の足で村々を訪ね歩いたフィールドワークの集大成でした。

その近藤先生が訪ね歩いた長寿村を再訪したのが、理化学研究所の辨野義己先生です。辨野先生は腸内細菌の世界的権威。なんと、長寿村のご老人の便を集めて回ったのです!
その結果は科学で裏付けられました。元気なお年寄りの便には「ビフィズス菌」などの善玉菌があふれていたのです。辨野先生はまた次のようなことも書いています。
加齢ともに、善玉菌の数は減少します。その境界が50代。中年にさしかかったら腸に優しい食生活に変えるべきでしょう。
今はやりの糖質制限。確かに短期間で減量します。しかし長寿のお年寄りたちは例外なく、食物繊維たっぷりの炭水化物を食べています。糖質制限の長期的な効果はまだわかっていないのです。
プレビウス菌はヨーロッパの人の腸内にもあるありふれた菌です。しかし日本人の腸にいるプレビウス菌だけが、海藻を分解する酵素をもっていることがわかりました。
海藻は、前述した近藤先生の研究からわかるとおり、長寿村の常備食です。海に囲まれ、大昔から海藻を食べてきた日本人ならではのものです。「毎日少しでも海藻を食べるべき」と近藤先生は主張しています。
しかしよい話ばかりではありません。『短命化が始まった』(農文協文化部著)によると、「日本一の長寿村」といわれた山梨県の棡原(ゆずりはら)で「逆さ仏現象」が起きました。ご老人は長寿なのに、次の世代の中高年がバタバタと病死してしまうのです。
棡原(ゆずりはら)は昭和43年に近藤先生が有名にした集落です。

急斜面の多い山のため水田がつくれません。住民は畑を耕し、麦・雑穀・野菜を自給自足しました。その食物繊維と重労働が、住民の長寿を支えたのです。同じく棡原を訪れた辨野先生も、ご老人たちの長寿菌の豊富さに驚いています。
しかし村に一本の道路が通り、バスが走り出すと状況は一変。町のスーパーから豊富な食材が流れ込みます。食の欧米化の始まりです。パン、マーガリン、ハム、牛肉…。その結果の短命化です。
私は、この本の中のある地元の方の以下のコメントが印象に残りました。

棡原のイメージは「貧しい粗食と重労働」。食物繊維豊富な食事は見た目が地味です。一般受けしなかったのです。ときはまさに高度成長期。アメリカに追いつけ追い越せという時代でした。長寿食に慣れた高齢者と中高年以下の世代にはギャップが生まれていたのです。
私はここでもう一度、近藤正二先生の本を読み返しました。そして私なりに、長寿村の要因を整理しました。それは次の4つになります。①自然環境 ②歴史的背景 ③村の風習 ④村長の命令

まず「①自然環境」ですが、棡原のような山間部では米作ができません。雑穀を栽培するしかなかったのです。また道路もない集落では、自分の畑で大量にとれた野菜を食べなければなりません。結果的に、ヘルシーな食生活になります。

「②歴史的背景」として興味深いのは、平家の落人の子孫の村。三重や兵庫の村の話が出てくるのですが、海の近くで魚をとろうとすると漁民から断られます。
そこで「魚はとりませんからここに住まわせてください」と、塩田や麦の栽培などで生計をたてます。その結果の長命。一方の漁民は、魚との物々交換で得た白米を多食。野菜不足。その結果短命になります。

「③村の風習」として、三重の遠洋漁業の村の話がでてきます。一般に女性の方が男性よりも長命なのですが、この村は女性の短命が目立ちました。近藤先生が調査すると、この村では亭主の甲斐性ということで、女性に労働をさせませんでした。毎日家々をめぐっては茶飲み話に明けくれます。これが短命の理由でした。
また宮崎の平家落人村の話。なぜかこの村では「かぼちゃを植えるな」という言い伝えがありました。よって野菜不足の短命。
岡山のある村では、短命のはずの男性が、女性とともに長生きしていました。近藤先生が調査に行くと、江戸時代からの習わしで、男女同権が奨励されていたのです。「野菜は女の食べ物だ!」という時代でした。男性は女性と同じように野菜をたくさん食べたため長生きしたのです。

最後の「④村長の命令」というのは面白いです。鳥取県の有名な米の産地に長寿村があるという情報が近藤先生に入ります。「米どころに長命なし」を提唱する近藤先生はさっそく出かけます。するとやはり…周りの村々が白米を多食し短命なのに、その村だけ白米を食べていません。その結果長命だったのです。
原因を捜し歩くと…明治時代のある村長が書いた本が見つかりました。「米はぜいたく品なので、お祝いの日に限って食べること」とあります。その教えを律儀に守ってきた村民は、雑穀を常食することで長生きできたというわけです。
以上長々とエピソードを紹介しましたが、私が何を言いたいのかというと、いずれもこれは「外的要因」であるということです。長寿村の人たちは、たまたま、与えられたその環境で生きてきたら、結果的に長生きしてしまったというだけなのです。だから山梨の棡原のように、道路が一本通るという環境変化に影響を受けてしまうわけです。
ここで私は声を大にして言いたいのです。21世紀とは、健康長寿食(食物繊維など)を自らの意志で選ぶ時代だと。それこそが「食の主体性」なのです。
私はかつて「白米よりも玄米!」と主張していていたことがあります。するとお母さんたち女性陣からは、美容の面からも賛成意見が出るのですが、どうもお父さんたちが…。「好きなもの食わせろ!」と白米がやめられないという話をよく聞きます。
玄米も炊き方次第で、ふっくら、モチモチになります。白米にはない栄養がありおいしいです。がそこは、白米が食べたいというのも「食の主体性」であるわけです。
私は「主体性」についてずっと考えてきました。これは現代の教育界の最大のテーマでもあります。主体性とは何か?主体性はどこから来るのか?脳か?しかし本当にそうなのか?
そんなとき、私はある本に出会い衝撃を受けました。その内容を、整理して紹介いたします。

いきなりコオロギです。これは私の小学校時代の記憶です。夏のプールの時間。よく、コオロギの死骸がプールの隅に浮かんでいるのを覚えているのです。なぜ?秋が近いのかな?そんな風に考えていました。しかし違いました。これはコオロギの自殺なのです。
youtubeで「コオロギ 自殺」と検索すると映像も出てきます。夜、プールに飛び込んだコオロギのおしりから、体長1メートルものハリガネムシが出てくるのです!

ハリガネムシは水中で交尾します。その卵はトンボの幼虫にくっつきます。そのまま成虫となったトンボはやがて死に、コオロギに食べられます。ここではじめて、ハリガネムシはコオロギの体内に寄生します。
ハリガネムシはコオロギの脳をハイジャックし、特に視覚をつくり変えていきます。明るいものに反応するようにしてしまいます。
コオロギは夜行性です。夜明るいものは?そう、月や電灯に反射する「水」です。果たしてコオロギは夜プールに飛び込みます。するとすぐに、コオロギの体内から…
ハリガネムシが寄生するのはコオロギだけでなく、カマキリやカマドウマなどもそうです。神戸大学の佐藤拓哉准教授によれば、調査したある川に生息するサケ科の魚が、年間に得る総エネルギー量の6割くらいをカマドウマから得ていたといいます。つまりこうしたことは頻繁にあることなのです。

これは「神経寄生生物学」という1980年代からはじまった新しい学問です。動物がほかの動物を操る。人間までも操っている。
以下『心を操る寄生生物』(キャスリン・マコーリフ著、インターシフト)を参考に、人間の主体性の問題までも揺るがすエピソードを紹介します。

ヒツジの体内に卵を産むある寄生虫。その便をカタツムリが食べます。そのカタツムリが移動した後に残った粘液を、アリがなめます。こうして寄生虫はアリの脳内に入るのです。
このアリは不思議な行動を始めます。昼は仲間と同じ。しかし夜、巣には帰らず草をのぼっていきます。ちょうどヒツジが食べやすい高さにくると、アゴでガチっと草にしがみつき離れなくなります。脳のアゴの働きを司る部位を操作してしまいます。そうしてヒツジに食べられるのを待つのです。

今度は鳥に寄生する虫。その糞をカタツムリが食べます。するとこのカタツムリ、行動ばかりではなく、形態までも変わってしまいます。
触覚が太く鮮やかになり、あたかも鳥の大好物のイモムシのようにクネクネ動きます。夜行性だったものが真昼にも動き回るようになり、簡単に鳥に見つかり…こうして循環は続くのです。
哺乳類も寄生されます。右の写真はトキソプラズマ原虫に感染したネズミです。なんと、宿敵のネコに恋してしまいます。

トキソプラズマ原虫はネコの体内で交尾します。その糞を食べたネズミは、ネコの尿に興奮するようになるのです(異性のネズミやウサギなどの尿には反応しません)。

脳内ではドーパミンが増加します。快楽に関わる物質です。恐怖を感じず行動が大胆になります。またトキソプラズマはオスの睾丸にも入り込みます。すると性ホルモンであるテストステロンが増加、メスを引き寄せ、子どもにも感染していくのです。
トキソプラズマはヒトにも感染します(世界人口の30%)。庭いじりや生肉を食べて感染することがあります。牛やヒツジがトキソプラズマに感染すると、筋肉の中に入り込むからです。
人間が感染すると交通事故を起こす確率が3倍になったというチェコの学者の報告があります。その他、自殺する確率が上がる、女性が性的に開放的になるという説も。ドーパミンが増えるので行動が大胆になるというのですが…。
私たちは寄生虫や菌に操られているのでしょうか?

①HIV感染者の末期、患者に異常な性欲が出ることがあるといいます。エイズは性交渉で感染します。ウイルスは使命を果たすべく人体を操るのです。
②コレラにかかると下痢をします。あたかも私たち自身が下痢して、菌を排出しているかのようです。しかしこれも菌がヒトDNAに働きかけているのです。
コレラ菌が増えすぎて、宿主であるヒトが死ねば自分たちも死にます。そこで、菌同士がコミュニケーションをとり合います。一定数以上になると信号を出し、ヒトDNAに指令します。腸壁の細胞をゆるめ、血液中から水分を呼び込み脱出します。これが下痢です。
③インフルエンザに感染すると家にひきこもります。しかしこれではウイルスの使命が果たせません。ヒトを社交的にしないとウイルスは広がりません。
そこで面白い研究をした学者がいます。インフルエンザの予防接種をすれば社交性が変わるのではないかと予想したのです。その結果、内向的な人がいきなりパーティーに参加するなど、普段と正反対の行動をする人たちが観察されたといいます。
やはり私たちは操られているのでしょうか?
ここでようやく本題にたどり着きました。腸内細菌は脳にどのように作用しているのでしょうか?

私たちの身体はまず「腸」から作られます。受精卵の外側が内にくぼみ、その口が閉じます。これが「腸」です。
その腸がのびてゆき、「口」と「肛門」ができます。さらに栄養をためこむところがふくらみ「肝臓」ができます。酸素をためこむところがふくらみ「肺」になります。そして上のほうがふくらんで「脳」になります。
脳は腸の出先として進化したのではないか。発生的にはそうなります。脳と腸は密接につながっているのです。
その証拠に、腸内細菌がまったくない無菌マウスの脳を調べると、記憶をつかさどる「海馬」の働きが低下していることがわかっています。学習能力がないのです。また性格も無気力で、何か行動を起こすと無謀なことをするといいます。腸内細菌が十分でないと、脳が育たないわけです。
ただこの無菌マウスでも、生後4週間以内(人間でいえば離乳期)に腸内細菌を投与すれば、正常に戻るといいます。早期に腸内細菌を整えることの大切さが示唆されます。
では次に人間で考えてみましょう。

脳と腸は迷走神経でつながっています。私たちはつねに脳がトップダウンで指令を出しているように考えがちですが、この場合は違います。なんと、90%もの命令が一方的に腸から脳へ上がるのです。
英語で腸のことをガット(gut)といいます。直感・第六感を「gut feeling」というのはこうした由来なのでしょう。
ではどんな指令が送られるのか?腸内細菌の働きにより、感情を調整するといわれる神経伝達物質(の前駆物質)を大量に生産するよう指令するといいます。ドーパミン、セロトニン、アセチリコリンなどの主要なものです。
たとえば、うつ病の人は脳内のセロトニンが少ないといいます。セロトニンが増えれば幸せな気持ちになります。その操作に腸内細菌が関与しているというのです。まさに「腸」を整えれば「心」が整うのです。

またカナダの大学でこんな実験があります。遺伝子的に違いのない2種類のマウスを用意。ただ性格は違います。小高い所にマウスを置いたときに、勇敢な性格のマウスはすぐに飛び降ります。しかし臆病な性格のマウスはなかなか降りることができません。
ここで双方の腸内細菌を入れ替えます。するとそれにともなって、性格(行動)も入れ替わってしまったというのです。性格は腸がコントロールしているのではないかという可能性です。

こんな実験もあります。抗うつ薬や抗不安薬の効果測定に使う強制水泳試験です。水にマウスを入れると必死に泳ぎ、だいたい2分で泳ぐ意欲が失われます。そこにあらかじめ腸の働きを活性化する乳酸菌を与えておくと、泳ぐ時間が2分40秒にのびました。
この40秒の違いは大きく、あたかも抗うつ薬を投与したかのように意欲が向上したということです。脳内レベルでみても、抗ストレス作用のあるGABAという物質が活性化していました。
しかしここでマウスの迷走神経を切断します。すると、泳ぐ意欲は2分でとまり、GABAも活性を失いました。

またワシントン大学の実験では、無菌マウスに2種類のヒトの腸内細菌を投入しました。一方はジャンキーな食事を好む人の腸内細菌、もう一方はヘルシーな腸内細菌です。そして好きなエサを選ばせると…
予想通り、ジャンキーな腸内細菌を入れたマウスは脂質の多い不健康なエサを食べ、ヘルシーな方は健康的なエサを選びました。

続いて、不健康な腸内細菌を入れたマウスに、ヘルシーな食事を好むヒト腸内細菌を追加しました。すると、健康的なエサにも興味を示しだしたというのです。
ここから、食事の好みは腸内細菌が決めているかもしれないということが示唆されます。

UCLAの教授で脳腸相関の権威であるエメロン・メイヤーにいたっては次のようなことをいっています。「脳MRI画像を見れば、だいたいその人の腸内細菌の分布が予測できてしまう」。まさに脳と腸はつながっているのです。
一歩進めて、腸を整えることで脳によい影響を与える可能性があるということです。これは私たちの意志でできます。何を食べるか?ここで主体性を発揮すべきです。こうした観点から食育を見直すべきだと私はいいたいのです。
ではどうすればいいのか。一言でいえば「とにかく食物繊維を毎日とりましょう!」となります。

大腸は唯一自分の意志でコントロールできる臓器です。食物繊維を食べるだけでいいのです。あとは腸内細菌が勝手にやってくれます。短鎖脂肪酸を生産して、私たちの健康を管理してくれるのです。
ところでここでちょっと怖い(?)話があります。
私たちの腸内細菌をすべてあわせると約1.5キロ。だいたいチワワ1匹分くらいの量です。変なたとえですが、腸内にチワワを飼っているとお考えください。

ではここでクイズです。家でペットを飼っているとします。もしチワワにエサを与えないでいるとどうなるでしょうか?
そんな事件が2011年に福生市でありました。一人暮らしの男性が服毒自殺しました。まさにチワワを飼っていました。時間がたって警察が部屋に踏み込むと…男性の顔がわからなくなっていました。飢えたチワワが顔をかじってしまったのです。
実は似たようなこと(?)が腸内でも起こっています。スタンフォード大学の微生物学者、ジャスティン・ソネンバーグによれば、

実は食物繊維をとらないだけでリスクなのです。前述した腸のバリア機能が損なわれてしまうのです。
食物繊維というと、「私は便秘じゃないからいいです」とか「美容・ダイエットですか」という認識が多いものです。しかしここで考えを改めねばなりません。人生100年時代の予防医学として、食物繊維を位置づけねばならないのです。あなたのチワワにエサを!
夏見台幼稚園・保育園は食育にこだわった園です。園内には調理場3つ、管理栄養士が2名、白砂糖は1つもありません。

❶白砂糖。精製される過程で、食物繊維やビタミン・ミネラルが失われます。栄養が少ないのです。そこで少しでも栄養価の高い甘味を、ということで「てんさい糖」を使っていましたが、コロナ禍を機に、さらにヘルシーな甘味を求めて、「本みりんを煮切ったみりん蜜」に切り替えました。腸内細菌のエサになるオリゴ糖も入っています。※おやつにはてんさい糖を使用
❷献立にはできるだけ食物繊維(海藻、緑黄野菜、きのこ、マメ類)を取り入れるようにしています。それだけではなく、園主の私自身も、年に2回、エプロンシアターを行って、子どもたちに腸内細菌とウンチの話をしています。


❸揚げ物などで使った油は1日で捨てています。以前は2日使っていたのですが、過酸化脂質は身体によくないのでコストはかかりますが改めました。
❹サラダにはエキストラバージン・オリーブオイルを使用。とてもヘルシーな油です。
❺主食は白米をやめて胚芽米にしました。精製された白米よりも、食物繊維やビタミンB1などはまだ多く含まれています。また胚芽米に雑穀をまぜて出すこともあります。子どもは色のついたごはんを嫌う傾向があり、最初は雑穀比率を10%以下から始めました。しかし今では30%強まで比率が上がっています。それでもモグモグ食べてくれています。
❻ハムなどの加工肉は出しません。食品添加物の問題です。発色剤の亜硝酸ナトリウムに発癌の可能性ありとWHOが報告しました。大手メーカーは、たくさん取らなければ大丈夫という見解ですがやめました。これらは子どもが大好きな食材です。だからあえて使いません。
「食品添加物」は一定の安全基準を満たしているから安全ですとわれます。しかし複数の添加物を同時に使う場合や長期にわたる使用の安全性は不明確なのです。
このコーナーは「ただ読んで終わり」ではなく、何かの行動につながるものであってほしいとの願いから書き始めたものです。
現在の私たちというのは、今までの人生の「結果」になっています。「なんとなく自分の家ではこうしてきたから…」「親がそうしてきたから…」「テレビでやっていたから…」等々。
そうではなくて、今の自分を人生の「原因」にする生き方。これが人生を主体的に生きることです。習慣をいかに変えていくか。問題はそこです。
2013年のベストセラー『習慣の力~The Power of Habit~』(チャールズ・デュヒッグ著、講談社)には、習慣を変えることに成功した人たちの話が出てきます。そのきっかけは、次のどちらかです。それは…
①信念(信仰)
②悲劇(病気や死別など)
悲劇を待つ必要はありません。私たちの脳は、もしかしたら腸内細菌に操られているのかもしれないのです。迷走神経を伝わって、「腸」から「脳」に下される指令が私たちの食習慣をつくっているようです。
カラクリが明らかになりつつある今、私たちは少しずつ、自らの意志で口に入れるものを変えていく必要があります。「大腸は唯一自分の意志でコントロールできる臓器」だからです。(終)
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